あなたの銀行預金が気候変動の悪化に貢献!?ダイベストメントとは?(石炭火力発電)
はじめに

みなさん、インベストメント(investment)って聞いたことがありますか?高校の英単語帳にも載っていたと思いますが、「投資」のことです。では、その対義語がなんだかわかりますか?実は、単語帳には載っていない単語です。「ダイベストメント」(divestment)と言います。
ダイベストメントは、皆さんが銀行に預けているお金に関連した用語です。もしかしたら、あなたの預けたお金が、環境に悪いことへの融資に使われているかもしれないのです。
ダイベストメントの定義・意味は?

野村証券によると、ダイベストメントの定義は以下のようになっています。
投資している金融資産を引き揚げること。持ち株や債券を手放したり、企業が自社事業の売却や他社への融資を停止したりすることを指す。
投資判断の際「ESG(環境、社会、企業統治)」を重視する考え方が広がり、特に石炭や石油などの化石燃料、武器やたばこなど環境や社会、健康に害を及ぼすとされる企業への投資撤退や取引中止の動きが欧米を中心に活発化している。
野村証券
自分の投資が環境や社会に使われてしまうことを防ぐため、金融資産を引き揚げることなのですね。身近な例で言えば、普段自分が銀行に預けている預金も、石炭火力発電所の建設のための融資として使われてしまっているかもしれません。その銀行にお金を預けるのをやめることを「ダイベストメント」というのですね。
また、環境に悪い投資をやめ、「ESG (環境、社会、企業統治)」に配慮している会社に投資することを「ESG投資」といい、これは近年欧米を中心に広がっている投資の考え方になります。
ダイベストメントの成功例(アパルトヘイトの事例)

近年の大きな成功例として、南アフリカで行われていた人種隔離政策(アパルトヘイト)撤廃を目指したダイベストメント(投資撤退)があります。全米の名門校も含めた大学155校が、南アフリカ政府と取引のあった企業への投資から撤退しました。
さらに、アメリカの16の州政府、22の群、90都市が南アフリカ政府と取引のある多国籍企業への投資資金を引き揚げ、経済的な側面からアパルトヘイトに反対する国際社会からのプレッシャーをかけました。結果として、アパルトヘイトを実施していた政府を弱体化させ、1994年に黒人であるネルソンマンデラが大統領に就任することでアパルトヘイトは完全に消滅しました。
化石燃料産業へのダイベストメント

現在、最もよく行われているダイベストメントは、化石燃料産業へのダイベストメントです。気候変動が話題になり、世界全体協力して対策を行うためのパリ協定も2015年に締結され、話題となりました。
一方、個人としては地球環境に配慮したライフスタイルを送っていたとしても、自らの預金が、環境によくない産業への融資として使われてしまっているという点に課題を感じた人たちにより、「化石燃料ダイベストメント」あるいは「石炭ダイベストメント」の活動が開始されました。
人々の関心は、特に先進国において、気候変動に代表される社会課題へと向かっています。2015年の国連総会で決定された「持続可能な開発目標 (SDGs)」への注目もその一部です。
こうしたトレンドにおいて、二酸化炭素の増加や大気汚染を引き起こす化石燃料の消費は、企業にとって「座礁資産」として考えられるようになりました。したがって、特に欧米では、座礁資産の筆頭である化石燃料からのダイベストメントが進んでいます。いくら大企業といえども、世論を無視した投資を続けることは、長期的に見てマイナスにしかならず、デメリットとなるのです。
また、原子力発電(原発)関連のインベストメントも広がってきています。
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また、近年では大手総合商社の三菱商事がベトナムの石炭火力発電所建設事業「ビンタン3」から撤退しました。脱炭素を巡り、二酸化炭素を大量に放出する石炭火力発電からの撤退を、スウェーデンの環境活動家「グレタさん」を含む若者たちが、デモ活動を行ったことも影響し、撤退を決定しました。
三菱商事にとっては、ベトナムへの石炭火力の投資は儲かることです。しかしながら、世間の環境問題への目は厳しくなっており、儲かるだけでは投資対象とならなくなってしまったのです。これが、ダイベストメントの1つの効果でもありますね。
座礁資産とは?

座礁資産とは、英語で“Stranded Assets”といい、市場のトレンドや社会環境の変化により価値が大きく下落(毀損)する資産のことを指します。近年では、特に化石燃料のことを指して使われることが多いです。化石燃料は現在の産業において欠かすことのできないエネルギーであり、非常に資産価値は高いと言えます。
しかしながら、近年の自然環境への配慮を求めるトレンド及び環境に優しい代替エネルギーの台頭から、今後資産価値が大きく下がると考えられます。こうした、社会のトレンドにより、大きく価値の下がる可能性のある化石燃料のような資産を「座礁資産」というのです。
イギリスのオックスフォード大学 Smith School of Enterprise and the Environmentによると、座礁資産をもたらす要素として以下の5つを挙げています。
気候変動や水資源制約など自然環境課題
シェールガスやリン酸など新たな資源の登場
炭素税や大気汚染規制など新たな政府法規制
太陽光や風力など再生可能エネルギーのコスト低下
社会規範や消費者性向
訴訟や現行法解釈の変化
Sustainable Japan

「気候変動の経済学」と称する報告書「スターン報告書」(スターンレビュー)で知られるイギリスの経済学者ニコラス・スターンは、企業の活動が原因で気候変動のような社会的損失が生じているのにもかかわらず、企業はその活動において利益を得る一方で、その社会的損失を社会全体に転嫁していると批判しています。
企業は自らの活動により生じた気候変動に対する費用をほとんど負担していません。こうした行為は、「世界最大の公害」とまで言われています。
こうした「世界最大の公害」を生み出す過程において、企業は私たちのお金を間接的に利用しているのです。こうした環境に悪い企業活動を防止するためにも、私たちのお金がそうした企業に流れないように工夫しなくてはなりませんね。
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具体的にどう行動したらよいの?

では、私たちは具体的にどのように行動したらよいのでしょうか。
最も簡単なのは、現在利用している預金のための銀行口座を、環境に優しい銀行(すなわち、化石燃料産業への投資を行っていない銀行)に移し替えることです。
国際環境NGOの350.orgにより、「環境にやさしい銀行」、「環境にやさしくない銀行」が発表されています。こうした情報を参考に、環境にやさしくない銀行にお金を預けている人は、ダイベストメントして環境にやさしい銀行にお金を移しましょう。
環境にやさしい銀行ランキング (2017)
- 1位 ソニー銀行
- 2位 城南信用金庫
- 3位 楽天銀行
ネット銀行や地方銀行が多いですね。ネット銀行は手数料も安く、手軽に使えるため、オススメです。僕は楽天銀行を使っています。月に3回振込手数料が無料になるといったメリットもあるのでお得です。

環境にやさしくない銀行ランキング (2017)
- 1位 三菱東京UFJ銀行 (現 三菱UFJ銀行)
- 2位 みずほ銀行
- 3位 三井住友銀行
メガバンクが上位に来ました。メガバンクは、日本で最もお金を持っている銀行ですから、投資先も国際的で大規模になります。
一方、環境にやさしい銀行として挙げられた銀行は、地方銀行やネット銀行であり、巨大な資産を持つメガバンクと比較すると化石燃料産業への投資が小さくなるのは必然と言えば必然です。

おわりに

普段から環境に配慮した生活を送っていたとしても、銀行に預けていたお金が、化石燃料産業への投資へと使われてしまう可能性はあるのです。間接的にでも、自分が化石燃料産業の発展に貢献してしまっているのです。
こうした事実を受け止め、直接的に自分が関わっていないから現状維持でも良いと考えるか、自分のお金が環境に悪いことに使われてしまうのは嫌だととらえるかはあなた次第です。
しかし、銀行口座の開設は無料です。ネット銀行であれば、近くに銀行の窓口がある必要もありません。手軽に実践することのできる、持続可能な社会への貢献、「ダイベストメント」。これを機にダイベストメント、初めてみませんか?
ちなみに、350 JAPANでは、ダイベストメント宣言といったキャンペーンも行っています。
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参考
NO!化石燃料
350 JAPAN