酸性雨って?その原因と被害【危険?禿げる?】中国からの越境大気汚染も
酸性雨とは?
みなさん、酸性雨って聞いたことありますよね。最近は、数年前に比べるとニュースに酸性雨という単語が出てくることがめっきり少なくなりましたが、酸性雨がなくなったわけではありません。
酸性の雨なんだなってことは酸性雨という単語からわかるかと思いますが、どの程度酸性なのか、浴びてしまうと危険なのかなど、詳しくは知らない人もおおいのではないかと思います。そこで、今回は知っているようでよく知らない「酸性雨」について解説していきます。
酸性雨の定義は?
酸性雨の定義は、pHが5.6以下の雨のことです。研究によっては、pH 5.0以下の雨のことを酸性雨とすることもありますが、一般的にはpH 5.6以下の雨と考えてよいです。
pHとは?
ところで、pHって何か知っていますか?
ピーエイチ、ピーエッチ、ペーハーとか言ったりしますが、正式名称は「水素イオン指数」と言います。酸・アルカリの指標なんだなってことはなんとなく高校化学の知識から覚えているかもしれませんね。深く追求するのでない限りは、その考え方で大丈夫です。
pHが低ければ低いほど酸性、高ければ高いほど塩基性(アルカリ性)を表します。pHが7.0で中性で、基本的にpHの範囲は0から14です。ということは、酸性雨の基準であるpH 5.6というのは少し酸性なんだなってことがわかりますね。
雨はみんな酸性?
実は、雨は基本的にどこでも酸性を示します。人間の活動がなかったとしても、大気中の二酸化炭素や、火山活動により生じる硫黄酸化物などが雨中に自然に溶け込むためです。
大気汚染が全くない状態でも、二酸化炭素の溶け込みにより、雨はpH 5.6を示します。
したがって、少しでも大気汚染が進むと、すぐに定義上は酸性雨になってしまいます。こうした理由から、pH 5.6以下ではなく、pH 5.0以下を酸性雨と定義する研究もあるのですね。
日本で酸性雨はあるの?
では、日本では酸性雨が観測されているのでしょうか。
気象庁大気環境観測所(岩手県大船渡市三陸町綾里)で観測された雨のpHは、2011年において4.8とされています。それ以降の観測データはありませんが、観測を開始した1976年以降、ずっと酸性雨の状態であるようです。
小笠原村の南鳥島でも、綾里ほど強い酸性ではありませんが、観測を開始した1996年以降常に酸性雨の状態となっていることがわかります。
南鳥島には、周囲に人間活動の多い場所がないにもかかわらず、酸性雨が観測されていることから、日本や大陸からの汚染物質がここまで運ばれているのだと考えられますね。
酸性雨の被害は?影響は?
では、酸性雨による被害はどのようなものがあるのでしょうか。
最も大きく被害を受けているのは、やはり自然界ですね。ヨーロッパでは、西ドイツの黒い森(シュバルツバルト)や、チェコスロバキア、ポーランド、スカンジナビアの森林が立ち枯れ、日本では、神奈川県丹沢や群馬県赤城山などで森林の立ち枯れの被害が確認されています。
特に、大打撃を受けたヨーロッパでは、酸性雨のことを「緑のペスト」と呼んでいるそうです。他にも、石像や銅像が溶ける、湖の魚が死ぬ、雨が目にしみる、鉄筋コンクリートの鉄筋の腐食を進行させるといった被害が確認されています。
人間が酸性雨を少し浴びる程度であれば、特に支障はありません。酸性の温泉があることからもわかる通り、酸性であるからといって、直ちに危険というわけではないのです。
したがって、 酸性雨を浴びると禿げるとの噂がありますが、大きな影響はないと言えるでしょう。しかし、森林の立ち枯れが起こるほど強い酸性雨に長期間さらされた場合、皮膚、頭皮、髪の毛、目などが被害を受ける可能性は考えられます。
酸性雨の原因は?
こうした被害をもたらす酸性雨。その原因にはどのようなものがあるのでしょうか。酸性雨の原因には、人為的なものと非人為的なものがあるとされています。
非人為的な原因は、主に火山活動によるものです。火山の噴火により、大量の硫黄酸化物が大気中に放出され、それが雨に溶け込み、酸性雨をもたらします。しかし、こうした非人為的な酸性雨は、被害が限られており、大きな問題ではありません。
問題となるのは、人間の活動により引き起こされる人為的な酸性雨です。その主な原因は以下の二つです。
- 車の排気ガス
- 工場の煤煙
こうした人間活動により、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が大気中に放出され、それが雨に溶け込むことで酸性雨をもたらします。
その歴史は、やはり産業革命のイギリスにまで遡ります。産業革命により石炭やコークスを大量消費したことにより、酸性雨を引き起こしたとされています。日本でも、高度経済成長期の環境に配慮しない急速な経済発展により、酸性雨を引き起こしました。
現在では、法律の整備も進み、汚染物質を大気中に無秩序に放出することはできません。しかしながら、今でも日本では酸性雨が観測されています。それはなぜでしょうか。
一つには、法律整備がなされたとはいえ、まだ自動車の排気ガスや工場からの煤煙の大気中への放出は続いています。エネルギーを全て再生可能エネルギーで賄うことができるレベルにまでない限り、汚染物質の放出を完全にゼロにすることは不可能でしょう。
また、現在急速な発展の続く中国からの越境大気汚染も、その原因となっています。黄砂や、近年ではPM2.5の越境大気汚染が話題となっていますが、酸性雨の原因となる汚染物質も偏西風に乗って日本へ運ばれてきます。こうした汚染は、一国の努力では解決することはできません。したがって、環境問題の解決には国際的な協力が必要不可欠なのですね。
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越境大気汚染に対する国際的な取り組み
では、国際社会は越境大気汚染に対する取り組みを行っているのでしょうか。こうした取り組みは、立ち枯れの被害が大きかったヨーロッパで進んでいます。
- 1979年:「長距離越境大気汚染条約」 酸性雨調査の実施などを規定
- 1985年:「ヘルシンキ議定書」 硫黄酸化物排出削減
- 1988年:「ソフィア議定書」窒素酸化物排出削減
- 1999年:「グーテンベルグ議定書」 複数の汚染物質の複数の効果について
東アジアでは、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)というネットワークが2001年年から稼働しています。ここでは、酸性雨の調査などを行っており、今後PM2.5やオゾンなどについてもモニタリングを行う予定です。また、環境省はライダーシステムと呼ばれるネットワークを韓国、中国及びモンゴルと構築しています。
おわりに
近年、酸性雨に関する報道は減りましたが、現在でも酸性雨は降り続いています。酸性雨を過去のものにしてしまうのではなく、自家用車になるべく乗らないなど、一人ひとりが身近なところから、酸性雨を減らすような対策をしていきたいですね。
ちなみに
酸性雨は英語”acid rain”といいます。環境系のトピックは、高校入試や大学入試の英語、TOEFL、英検などでも頻出なので覚えておきましょう。
その他用語:酸性雨は、酸性の雨のことですが、酸性の雪を酸性雪(さんせいせつ)、酸性の霧を酸性霧(さんせいむ、さんせいぎり)と言います。
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